君とともだち



金曜の午前の休み時間。僕は鉄のように重たい眠気を持て余していた。軽く鈍い頭痛までするものの寝られそうにはないし、たぶんここで寝てしまうわけにもいかない。組んだ腕に頭を預けて突っ伏す。細めた視界に一席挟んで木野の席がある。間に座る木津さんは席を立っていた。左手の窓からいい風が吹いてくる。ところで僕は右手側を向いて俯すのは好きじゃないはずだった。
 「国也」
その隣の席の青山がノート片手に声をかけた。木野は怠そうな頬杖を外して向き直ったので僕には後ろ頭しか見えなくなった。木野の主な友人二人は木野を下の名前で呼ぶ。くにや、と頭の中でつぶやいてみた。苦笑いしか出なかった。僕はたまにこうして一人虚しく恥ずかしくなる。
青山がノートを指し示して二言三言尋ねた。木野は本を開いて教えてやる。前の時間は古文だった。木野は僕と競うとか言って文系科目だけはせっせと勉強している。前の期末では日本史で三点勝ったとか言って誇らしげにしていた。その後何か水をさすようなことを言ってしまったか何かでやはり気を悪くさせたが。つまりやはり僕は木野にただ張り合う相手としか思われてないんだろう。そう考えると鈍痛の頭でどこかが渇いた。
目を瞑っても、健やかな眠りは更に遠くへ行っていた。まぶたの奥で疲れが明滅する。諦めて顔を上げると、ちょうど青山が教科書を携え芳賀と連れ立って教室を出るのが見えた。次は数学で、少人数制とかで教室が分かれる。木野はまたつまらなそうにぼんやりしていた。横顔を見ていたら、相当気恥ずかしい思いつきがふっと湧いた。なんだか試してみたくなった。静かに席を立って歩み寄る。
 「国也」
僕は意外と平滑な声で言えた。木野はすぐ顔を上げて、少しの間きょとんと僕を見ていた。
 「…なんだよ」
何でもなさそうに応えるその口の端と目の色にわかりやすい喜びが隠れていたものだから僕はうっかりめまいがした。いや、とかなんとかもごもご続ける前にチャイムが鳴る。ほっと息をついた。だってここで照れなんか見せたら妙だし。
 「ごめん、後でいいや」
 「なんだそれ」
わずかな間だけ頭痛が飛んでいた。変なやつ、と言って笑う木野の顔を僕はゆうべ読んだ本の結びよりも確かに記憶した。




呼んでみただけ というセオリー

- end -

2008-09


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