ばくばくと



「久藤久藤久藤久藤」
「何」
「もうまじでどうしようなあどうしたらいいと思うなあなあなあ」
「まだ何にも聞いてないんですけど、っていうか図書室では静かに」
「まじで大変なんだよ、恋が大爆発なんだよ!」
「玉砕したの?」
「してねえよ!本当そんな冗談言ってる場合じゃないんだって考えろよまじ泣くぞテメ」
「泣けよ」
「傷つくぞ」
「だって木野の泣いてる顔好きなんだもん…おもしろいから」
「だもんじゃねえよ!おもしろがんなよ!」
「しょうがないでしょうおもしろいんだから」
「まじひでえなお前、親友の俺がこんな苦しんでんのに黙々と本読みやがって」
「さっきから何回まじでまじで言ってんの、っていうかちゃんと会話してるでしょ」
「うるせえよ」
「あと親友になった覚えはないんだからね」
「へこむぞ」
「チッ」
「何の舌打ちだよ今の」
「ないしょ」


「…つうわけでもう加賀のこと考えてるだけで心臓ばくばくばくばく寝れないし」
「へえよかったね」
「今日も寝坊して遅刻したし」
「寝てんじゃん」
「朝飯もパン一枚しか食えなかったし」
「食ってんじゃん、ってか急げよ」
「んで昼休みちょっとでも喋りたくて話しかけにいったらちょうど廊下出てくとこで追っかけたら見つかんないのもうまじでショックだったし何か用でもあったのかなあ」
「あの加賀さんが妙に猛ダッシュで廊下走ってると思ったら…」
「え、何で!?大丈夫か体弱いのに!」
「2Fの踊り場でゼーハー言いながら廊下に謝ってたから、丁重に保護して保健室連れてったよ」
「ありがとう恩に着る!ってか何でそんな走って…」
「どっかの誰かから逃げてたんじゃないの」
「誰だよ?俺の天使に!」
「お前本当に文脈読まないね」
「え?」
「…まあもう平気だと思うよ、五限目にはちゃんと戻ってきてたでしょ」
「そっか、そうだよな。でも明日は理由聞かないと」
「やめときなよ…」
「え?」


「なあ久藤、恋ってこんな苦しいもんだったんだな。俺はじめて知ったわ」
「あんまり苦しんでるようには見えないけど」
「…やっぱ久藤みたいな淡泊野郎にはわかんないんだろうなこういう青春のどきどき感とかの空気が」
「そう?充分実感してるつもりだけどな」
「え、何お前好きな子いんの」
「さあ、どうでしょう」
「ごまかすなって、いいじゃん教えろよ」
「やだよ」
「つめてえ。…もういいし、帰る」
「あ、そう?じゃあね」
「引きとめろよ!」
「面倒くさい彼女かお前」
「何だそれ、ってかもし俺が女で当然超絶美少女でもお前の彼女になんかなんねえよばーか!」
「ものの喩えに本気になんないでよ」
「うるせえよ!」



結局行っちゃったよ。彼女か、ああ本当そうだったらよかったのに。まじで。あれで女の子だったら確かにまあ結構可愛いだろうし。っていうか好みだし、まず。っていうかそもそも別に男でいいんだけどね僕は。何でか知らないけどね。誰かに惚れたのお前しかないからこんな自分をどう呼んだらいいのかも微妙だよ。断固拒否か。全く、傷つくのはこっちだっての。じゃあ今度気合い入れて泣かせてやろう。たぶんその夜僕がいろいろ自己嫌悪するはめになるんだろうけどね。全く僕は冷静だ。
…ん、何の本だろ。忘れ物かな、木野はそそっかしいから…あれ、これ僕読みたいってこの前言った覚えがある。だいぶ古くて絶版だから、高価じゃないけど見ないのに。けっこう美本だし、図書館のシールもないし、古本屋のシールの跡、きれいに剥がされてるし…ああ全く。
ばくばくしてたら大爆発か。じゃあ痛いくらいどきどきどきどきしてて怖いくらいにやにやにやにやしてていっそその辺ごろごろごろごろしたくなってて悲しくないのになんか今にも泣きそうなときって、一体全体どう表現したらいいんだろう?



「ひどいなあ」

あの軽口を自在に再生できる耳とあの表情をほとんど記憶した目がある。嘘みたいに静かになった図書室に、僕の呟きがぽとんと消えた。




無理はしてないはずなのに

- end -

2008-11


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