題もない午後



「望が好きなんだって?」
「ええ、まあ」
「手は出されてないでしょうね」
「いいえ全く、これっぽっちも。弟さん枯れてますから」
「そうか」
「いっそ出したいくらいです」
「…逃げるぞたぶん」


「ちょっと、聞いてもらってもいいですか」
「どうぞ。管轄外ですが」
「…たぶん初恋なんですけど、意外とあっさりやってきて、思ってたよりなんか、苦しいです」
「そうか。まあ…深手を負わない程度にね」
「はい」
「できるなら、やめといた方がいいぞ」
「それは無理です」


「純粋に疑問なんですが、望のどこがいいんですか」
「…さあ」
「さあって」
「最初はただ単に頼りなくてしっぽの似合いそうな先生だなあと思ってたんですけど」
「不穏なことは聞かなかったことにするが、それで?」
「…あれ?今もそんな変わらないような」
「ほほう」


「なんかもう疲れました」
「何だ藪から棒に」
「言葉通りです」
「…お茶でも飲んでいくかい?」
「はい、頂きます」


「ああおいしい」
「それはよかった」
「これもう一個食べていいですか」
「もう取ってるじゃないか」
「はい。もう本当、散々ですよ。いくらつかまえても振りほどかれるし、千里ちゃんや真夜ちゃんとはいざこざしちゃうし」
「ああ、最近余計に生傷が耐えないと思ったら」
「そろそろ埋められるかもしれません」
「…何か困ったら私を呼びなさい」
「土の中って圏外じゃないでしょうか」
「埋まる前にだ」


「しかし、きみが弱音を吐くというのは何だか新鮮な気がするな」
「そうですか?」
「ええ。大怪我しても平然とここに歩いてくるし」
「慣れてますんで」
「しかしいくら数少ない患者のひとりといえ、こんな頻繁に訪れられるのもな」
「主治医を代えろってことですか」
「もっと気をつけろと言ってるんだ」


「で、戦況はいかがですか」
「芳しくないです。…本気で拒否られたし」
「いつ」
「今日。抱き着いたらやんわり止められて、いつになく真剣に哀愁おびて皮肉られました。ちょっと泣けました」
「そうか、今度一回殴っておく」
「それはどうも (それにしても複雑だ)」




こえられない壁とお茶会

- end -

2008-08


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