なぞらえあそび



たとえば外国の雑誌に載っている裸のお姉さんみたいにきれい、なんて言うと彼女は簡単に気分を害すだろう。たとえ惜しみなく白い足を晒し、誇らしげに自分の体つきを語ろうと、彼女はまだ他人の体温も知らない娘なのだ。その点では私も彼女のことは言えないけれど、わたしがそういう物に興味も執着も浅いのに対して、彼女は好奇と恐怖をたっぷり備えた嫌悪を持っている。そんな訳だから、開いた胸元を挑むような顔で見せびらかしたり、風でひるがえったスカートに目をやった男に意味ありげな流し目をしても、彼女は娼婦をきどっているわけではない。人の三倍は高い矜持は、汚い手が伸びてきたら張り倒してでも逃げそして嬉々としてお上に訴え出る。(たとえるなら声の高い人魚姫、それともガラスの靴を抱え込むシンデレラ?まあ願望かもしれないしひいき目かもしれないけどそんなのどうだっていいよね)


彼女はたぶん純粋にその価値を知らされたくて、認める声を聞きたくてしかたがないだけだ。膨れた胸の純白さを見せつけて、そうして男たちが口々に囃す声を満足げに聞くのだ。心から見下したいもの相手にむなしいだなんてことも思わないでまっすぐに迷いなく賞賛を強請り勝ち誇って笑う。(白雪姫のお義母さんみたいね!あの子にぴったりだ、鏡だけが話し相手の哀れでおかしい美貌の妃。だってもし欲しいものがそれならとても足りないことくらい知ってるのに。本当に欲しいものの代わりなら、きっと余計に渇いてしまうのに)


少しでも不躾な言い方をすると途端に臍を曲げてしまう。そして罰せられるべきと捲し立てる。けれどわたしはそんな少女の声が決してきらいではない。ヒステリックな叫びも天使の笛みたいに聞こえる。耳がおかしいんだろう、頭がおかしいんだもの。それから時に入れ替わる少女たちもまた好きだ。もう数人あるいは数十人のとりどりの彼女たちもしくはそうと言い張るただ一人の彼女。あの子は頭の中であの子たちと話すそうだ。そうして渡航先に設定したステレオタイプの外国に思いめぐらすらしい。(じゃあ彼女に嵌るのは意外と気違いアリスかもしれない。いかれてるなんて言えばなんてわめいて怒るかな?)


糾弾家で夢想屋、理性的で凶暴。高飛車で世話焼き、怠惰でせっかち。拒絶を恐れて他人をなじり、気のないそぶりで肯定をせがむ。拒否と順応のいびつな歯車は、まったくアンバランスで飽きることがない。おかげでわたしはシンパシーを感じて感じて、大いに頭が痛くなってきたからいつか彼女をつきおとす夢をみるかもしれない。(ウェーブのかかった金髪が落ちていくのは湖面と決まっている。異国の娘を異国の童話通りに、いやだなあきちんと空を切った手をつかんであげますよ。だって私は鬼じゃないから)


昔追いやられた埋め合わせみたいに堂々と歩いていく。そして叫ぶ。世の見る目ない男ども、こんなにもうつくしい娘がここにいるよ!ああなんて健気で頭が弱くて、咲き誇るような女の子だろう。わたしは有り得ないと思っていた恋に至極あっさりと落ちた。
(だけどあいにく、がらんどうでごうつくばりな策謀ばかりしみついた道化の魔女をたすけてくれる姫君の話なんてわたしは知らない) 




そして今日も白痴のふりしてあの子をからかうの

- end -

2008-08


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