(久藤×木野)

 

凍えるような雨の昼間にあっつあつの味噌ラーメン野菜多め、それはつまり一つの至福である。というわけでにんまりと頬をゆるめながらいそいそと椅子に座ったら丼を目の前に置きつつ呆れ笑いをされた。なぜだ。ともかく箸を手にして手を合わせて麺をすする。もやししゃきしゃきスープあつあつ辛さ丁度よし、ふわっと味噌の香りに半熟卵があいまってインスタントながら。


 「うーまい!」
 「どうも」
言っちゃ何だがこういう食べ物が似合わない気もする久藤は、でもこんなのまずく作れる方がふしぎじゃないのなんて言いながらこっちを見ている。何を言うか。久藤の家ほど豪勢じゃない俺ん家には手早く作れるこういうのが割と常備されているものの、正直今までこんなレベル作れたためしがない。お前やっぱり魔法使いだったりする?しないか。そもそも魔法ではラーメン作んないな。
 「何、なんか足した?」
 「適当にごま油とか、あと野菜炒めるときに薬味と辛いのちょっと入れた」
 「おお…」
がつがつ食いながら生返事を返す。なんかもう全部が丁度よすぎて説明聞いても何でこうなったんだかわかんないけどうまい。スープからんだ白菜が絶妙。あと卵やばい、とろっとろ。肉入ってないのに満足しそう。うまい。しあわせ。
 「ちょ、今度もっかい作って」
 「気が早いなあ、いいよ」
すっかり感動してしまっている俺に久藤がくすくす笑う。そして自分も丼に手をつけ始めて一口すすってから胡椒を足したりしている。うつむく顔をうかがうと楽しそうだったのでよかった。窓の外では未だ寒そうな強い雨が横殴りになって降っている。ざあざあがやけに遠く聞こえる。あったまってきた体はいっそ暑いくらいで頬や耳がほてっているのがわかった。すすってすすって気付けば丼の中がすでにあらかた片付いている。いつのまに。名残惜しくスープを飲んでいたら辛いから残しなさいと言われた。うまいんだからしょうがない。
 「まじうまかった」
 「ありがと」
久藤は一休みなのかお茶を飲んでいた。あつい、と息をついてそのまま卓に腕を組んで伏せる。そしてふと思い付いたようにそのままこちらを見上げた。いわゆる上目遣いだ。


 「一生作ってもらえたら嬉しい?」


にこやかな目の奥できらめく魔法にこちらはつられて頷くしかなかったものの、しかしそれこそ塩分過多だよなとふと思って、それがどういう意味なんだかという反駁に辿り着くのがちょっと遅れた。

 


◇◇◇

 


(久藤→木野→加賀)

 


現代日本にはチョコレートなんて年中あるものだし、気持ちを伝える機会なんてわざわざ日を設けなくてもいくらでもあるわけだし、実際女の子たちはもはやただ告白の手段というより仲間内で交換するお菓子でばかり盛り上がっているという。だからとりあえずわかりやすく浮き足立つのをやめてほしい。朝の始業前、木野はさっきから口を開こうとしてはためらってもじもじしていた。そして僕の前の席に座り直したり突っ伏したり起き上がったりする。視界の隅でばたばた忙しないものだから本が読めやしない。溜め息まじりに本を閉じると、それを見計らったのか勢いよく話しかけられた。


 「なあ、くれると思う?」
ずっと言いたかったらしいことを言いながら詰め寄る木野はよっぽど女の子みたいなことになっている。普段はどちらかといえば硬派ぶったようなくせに。目は不安と期待に揺れたり光ったり、頬は薄赤くなったり冷めたり、いつもに輪を掛けて忙しい。僕は生唾を飲まないふりをして言った。
 「そんなの加賀さんに聞いてよ」
 「聞けるか!!」
主語を足してやるとうろたえたように怒られた。面倒極まりない。だったらもういっそお前が渡せよ。何だっけ去年そういうキャンペーンあったよね。お菓子工場にあやつられるまま立ち上がって辺りをうろつき出した木野に僕は二度目の溜め息をつきながら鞄をさぐる。せめてとりあえず座ってほしい。
 「これでも食べて落ち着きなよ」
差し出したのは何ら変哲のないチョコレート駄菓子の筒。色とりどりな糖衣の溶けにくいやつ。木野は一瞬きょとんとして僕を見る。よし止まった。
 「え、何、くれんの?」
 「そういう意味ではありません」
奴がわくわく目を輝かせるから途端にうっすら恥ずかしくなって、突き出された手に筒を傾けてざらっとこぼれそうなほど乗せてやった。あわててもう片手を添えるのが笑える。
 「どうやって食うんだよ!」
笑いながら抗議するのでいくつかそこからつまみ上げる。木野は楽しくなったようで少なくはなったそれをざらざら口に含んで食べだす。僕も甘いだけの錠剤もどきを口に入れる。噛むたびにがりがりと教室に似合わない音が立って近くにいた女子がふしぎそうに見てきた。黙々と食べる木野の手の山があらかた片付いた頃、僕は聞いた。


 「何の話してたっけ」
 「加賀だよ!」
残念、これだけじゃあまり鎮静剤にはなれない様子。呆れたような少しは治ったような木野に本日は幸いあれと祈ってやった。

 


◇◇◇

 


(木野と先生)

 


たとえば「しんでもいい」なんてのはかなり縁遠い話である。「しんでもいやだ」ならまあありうるが。そしてもし仮に好きな子をこの胸に預かるなら前者、そして今の状況は…まあ後者だとまでは言わないけどもだ。


 「先生」
とりあえず止めてくれるように呼びかけてみる。その両腕は力ないのでやろうと思えばすぐ退けられるのだが相手は担任なのだ。鬼の攪乱とは言わないまでも晴天の霹靂な感じだなと思う。そして危険な場面かもしれない。先生本人が危ないというのではそれほどなく、夕方の校舎の廊下でモテモテ教師に抱きしめられているという点で。我がクラスの一部女子のご乱心はすごくとても怖い。迷惑だなあこの人、と俺は先生の肩口に顎を置いたまま眉を寄せた。さっき呼び止めたかと思ったらこれだ。長身を屈めて俺に寄り掛かるような姿勢で体重はあまりかけないように、ってそれはちょっと辛いだろうに。膝悪くしますよ。
 「何かあったんですか」
問い掛けてみても返事はない。慰めが欲しいんだったら大草さんとかに当たってほしい。頬にさわる髪がくすぐったい。かたい体の温度が何枚もの布越しに伝わる。和服はしゅるりとしている。別にきもちわるくはないけど気分は少し悪い。げんなり、みたいな。正直言うとめんどいんだよなこの人。
 「ボクもう帰るところだったんですよ」
 「はい」
 「というかあの帰りたいです」
 「…だめです」
ゆるく腰に回してあった両腕がしっかりと俺の両手首を掴む。体は寄り掛かったまま。ほら面倒だ。愚痴るならさっさと愚痴って解放してください。ていうかさ。

 「言っちゃうと俺あんまり先生好きじゃないです」
 「知ってます」
はねのけようとしたのにより強く込められた。なんでそこだけはっきり言うんだ。俺が悪いみたいじゃないかとうっすら視界がぼやけた。どちらかといえば欠伸だ。

 「離してください」
 「嫌です」
 「あの子を選ぶんじゃないくせに」
 「選べばいいんですか弄んだことになるだけなのに?そうじゃないんでしょう君は違うんでしょう」
 「わかってるんだったら聞くな、って話です」
 「あげられますよ」
 「……っ」

一瞬にして怒りが憎らしく煮える。胃のふちが熱くひきつって沸く。耳端に寂しく笑う気配がした。すぐ怒鳴りそびれて、むかつく。木津さんは斬りかかりにこない。俺たちは間の抜けたオブジェみたいに固まって黙っている。どんどん日が落ちていく木造の廊下は直線に異世界だった。

 


◇◇◇

 


(久藤と木野)

 


夢を見た。弱い陽光に春先のぬるい雨がはらはらと漂っていて濡れたコンクリの湿気があった。傘なんかいらなかったから持ってなかったんだと思う。僕とあいつは広い道をさえぎるように向かい合って突っ立っている。しおれた桜並木が真っ白く揺れていた。二人とも黒い学生服を着ていて首元まで息苦しいくらいきちんとしている。あいつは雨と同じくらい頼りなく笑ったので、僕がそんな顔したら怒るくせにと思って冷ややかに見つめた。少しずつ少しずつ奪われる体温と同じくらい熱を失っていく。目の前の薄灰色な光景がアクリル一枚隔てた世界に見えた。木野は一瞬だけ寂しそうにして、ひとつ呟いた。「いいのに」、花びらが数枚だけ舞う。奴はいつのまにか真っ白い女子の制服を着ていた。折り目の揃った紺色の裾がゆるくはためく。「別にお前だったら、いいのに」、そう言った次に温い風がぶわりと巻いて僕は目を覚ました。真っ暗な天井に向けて目を見開いて汗をじわりと浮かべて鼓動だけどくどくと、まさしく悪夢を見たような顔をしていたんだろう。耳の奥に脈を聞きながら震える息をつく。最悪だ。無理に体をむさぼる夢を見たときより甘く吸いつき合う夢を見たときより、むせび泣く顔より蕩けてあえぐ顔よりも嫌だったのは、その受容をたたえた笑みが限りなく遠くて近かったからだ。ありえないしありえてほしくない、そのはずなのに未だ往生際悪く夢を見て夢に見ている。それだけでずたずたにひきちぎられてしまうというのに。本当に許されてしまったらきっと拒まれ気味悪がられるのの何百倍も屠られるのだろう。そんなところまで来てしまった、信仰みたいになってしまった。まったく逆の地点かもしれないけれど。ちかちかと残像が瞬く、翻る紺のスカート。もし奴がそれを着る女の子だったとしたら。最悪だ、ともう一度言った。真っ暗な壁に僕の頭の中がぜんぶ沈み込んでなくなればいいのに。雨も桜もスカートもぜんぜん似つかわしくなく似合っていた。思い出して少しだけ笑う。ぬるい小雨が落ちた。

 


◇◇◇

 


(久藤→木野・卒業後・同居中設定)

 


静かな夜に帰って来たら木野はいつもと同じく頬杖ついてテレビを見ていてこちらに首をめぐらせてお帰りと言った。僕はしまりなく笑う表情筋を自覚しながらただいまと言う。といっても人からは僕が思ってるほど何かの表情を浮かべてるようには見えないらしいんだけど。木野は立ち上がって鍋をあたために向かう。共用の大きくないテレビとか椅子とテーブルとか片付かない本棚のある居間は手狭な台所と一続きですぐにシチューの風味が漂いだした。上機嫌だな、と木野が呟く。僕の読みづらいらしい感情を言い当てるのが少し得意だ。


 「帰ってこれたしお前がいるなと思って」
 「なんだそれ」

一言笑われたけれども本当の無理解じゃないことはわかりきっている。冷蔵庫から冷やご飯とかチーズを出して酔っていても食べやすい料理にしてくれているから。まったく飲み会とはだらしのない催しだ、と僕は椅子に座りくずれた。適当に話を合わせて勧められたものを飲んで女の子の目線から自分をそらせる。今日もうまくやりおおせた。えらいでしょう褒めてとまで言ってしまうにはお酒が回りきっていない。僕はなんとなく弱い。
 
 「はいよ」

テーブルに置かれたあたたかな深皿に手を合わせてスプーンでかきこむ。いつもながら微妙にぼやけた味だ。市販のルーとかを使っているはずなのに、まあ前よりはましだけれど。あと少し塩と胡椒を足してもうちょっと煮詰めて、それをしないのはこのリゾットもどきが僕にとてもしみいるからです。木野は向かいに座って遠い世界のニュースを見ている。ちょっと短くした髪がテレビの光を虹色に反射している。寝間着がわりのTシャツは褪せた奇天烈色で外に着ていく服はいつからか幾分かだけ落ち着いた。なんだろう変わったんだろうね僕らも。かたいにんじんを噛みつぶしながらあと10年このままでいたいなあと卒業する前より欲張りに思った。

 


◇◇◇

 


(久藤VS先生・ちょっとヤンデレ)

 


「いなくなってください」

「は?…先生きみがそんなこと言うとは思ってもみませんでした」
「そうですか、じゃあ絶望して屋上でも行ってきてください」
「あいにくそこまでつらくなるほどきみのことを思っちゃいません」
「じゃあ今の台詞を誰かに言って刺されてください、その人の正当防衛は証言してあげますから」
「私以外にはやさしいですねえ本当」

「そんなに私が嫌いですか」
「邪魔です」
「…また物騒な」
「世の中にこんなにも邪魔なものがあるんだなってくらいです」
「私なにかしましたかね、あの子たちのだれかがお好きなんですか?だったらすぐ治るはしかですからしばらく辛抱なさい」
「いいえ、先生がのうのうとここにいる限り彼女はきっと治りませんよ。思い込みが強いというのは厄介です」
「まったくそれはそうですが、だからといって古今東西のトリックだけ分厚いメモにするのはどうなんです」
「今のところいい手が思いつかないのでご心配なく、罪には問われたくないんです」
「嫌になるくらい冷静ですね君も」

「頭がよく回るついでに思い直してくれませんか、きっと寝覚めも悪いでしょう」
「改心した途端に先生が召されるのであれば悔しさを飲んで泣いてあげられますよ」
「それ一つも改心してないじゃないですか」

「先生さえいなくなればあの子はあいつと幸せになれるんです」
「主語は逆でしょう?」
「…急に25個目の案を試したくなりましたよ」
「口封じなんかしなくとも言い触らしませんよ、皆さん信じないでしょうし」
「それはそうですが」
「聞かれたら泣かれますよ」
「聞かせませんよ」

「思い込み、とおっしゃいましたね。所詮全ての愛だ恋だはそれですよ。きみが抱いているものも彼女たちもあの子も。何なら、私が彼を幸せにして差し上げましょうか」


「………人の顔を痕がつくほど踏むことはないでしょう、ああ行ってしまった」

 


◇◇◇

 


(久藤→木野)


何の前触れもなくしがみついたので戸惑っているだろうなと思う。息が詰まるのは僕の方だ。背中の布地を指が痛いくらい掴む。首と首をふれさせるのはためらって額を肩にのせた。異様な幾何学模様があんまり間近に見えて、騒ぐ胸と静かな胸がぴったり合わさる平坦さであることだけ少し笑えた。静電気をはらんでいるかもしれない。どうした、と少しうろたえて言ってさまよったかもしれない手が背中を叩く。泣いていないものをあやす。悲しくなんてなかった、弱ってしまっただけだ。お前はたぶんすぐにでもあの子とつきあえるよ。教えてやれないずるさを許してもらうことはできない。

 


◇◇◇

 


(久藤と木野)

 


木野は素直だ。表情が豊かで嘘をつくのが下手ですぐ揺らぐ感情を隠せない。好きな相手にはつい芝居がかった調子で冗長な余裕を装う。だから他者に与える印象はその服の選び方がまあひどいことを除けば常に明快なものだ。けれどもあの真っ黒な目は一瞬どこか人をそら寒くさせるらしい。ふっと浮かんでいた笑みや涙が消える瞬間だけ自分が立つ床が抜けたような気がするのだと誰かが言っていた。だからあいつをこっそりおそろしがる人間は意外なほど見つかる。悪い奴じゃないんだけどな、なんてよく聞くことだ。ピエロを怖がる子供みたいなことなのだろう、真意を計れない出で立ちに底知れない何かを見てしまう人々。しかし僕があいつの目に思うのは少し違うようだった。どう言えばいいかはわからないけど、あいつが笑ったり泣いたりするのをやめる一点がどこか世界のように見える。宙を仰ぐなめらかな横顔に遠く銀河を見るような気持ちになるのだ。なんて言葉で表すだけで気恥ずかしすぎて笑えてきちゃうんだけど。人がこんなことを言ってたなら脳みそ溶けかかってるんじゃないのって思うだろう。そうして今も僕が練り回したさっき考えついただけの話であっけなく号泣している奴の濡れた頬に手を伸ばして、怪訝そうにこちらをついと見上げたその目に射抜かれた。言葉遊びじゃなく星が浮いては消えてる。僕が揺れては流れる。指先で涙を拭いながら笑いかけて思った。いかれてなんかないのにね。

 


◇◇◇

 


(久藤→木野)

 


 「はあ、もう、…」
長い愚痴の後に続く四文字を僕は上手く聞き取れなかった。耳には届いたけど意味をよく解釈する余裕が失せたのだ。瞬間的に青くなった顔で突発的に青いことを思った。そして鋭い電気になって腕を動かしていた。本すら放り出して。


 「いやだ」
床に押し倒すみたいに抱き締めてしまったことに気づいたのは平たい胸にうずまってからで、それが拙いとは凍った頭にも明らかだったが奴を離せなかった。喉が震えていてすごくみっともない。僕はこんなにもぶざまだっただろうか。細くてかたくて骨張った体を抱き込む。頬に変な飾りが当たってうっとうしい。息をするたびに奴の体温がして欲よりもうっすら涙がにじんだ。

 「…悪ぃ」
頭をわしわし撫でられてやっと気恥ずかしさが戻る。軽口一つになんともはや過剰反応。でもやっぱり安堵が先だった。一瞬だけど怖かった。面食らった顔をしているかな、僕だってわりとびっくりしたんだけど。お前がいなくなったら僕は果てのない真っ暗にまでなっちゃうそうだ。もごもご頷きながら背中に回していた手をそろりと離す。縋っているなあと思った。


 

◇◇◇

 


(久藤? 木野?)

 


奴が心から笑みを浮かべたらこっちの心を持っていかれてしまうということを知っている人間は案外少ない。それは例えば感激して礼を言うときとかくらいで、そのたびにこいつは思いの外表情の種類が限られているんじゃないのかと思う。となるとどうにもその枠を崩してやりたくなるのが必然の道理な訳で、つまりこれはもっとあいつの色んな顔が見たいってことなんだと気づいたのはごく最近の話だ。奴の笑顔はなんだか増えた。いいことだろうと思う。

 


◇◇◇

 


(久藤と木野)

 


木野はいつでもぺろりと食べる。木野の家に呼ばれて僕が食べ余すくらい余分に作ってもらった食事は大抵引き受けてくれるし、学校帰りに寄った喫茶店なんかで僕が手持ち無沙汰に頼んだ軽食なんかもほぼ一人で平らげてしまう。無理を察してあっさり皿を引き取ってくれるか、そわそわと物欲しそうに器を見ているか、どちらもよくあることだ。だから僕らどっちが大人なのかっていうとどっちなんだろう。場合場合だし、持ちつ持たれつみたいなところもあるのかな。大草さんは二人とも子供みたいって笑う。でも僕としては休み時間に朝食ってない腹へったってめそめそ泣きついてくる奴の方が幼いんじゃないかなって思う。もらったら何でも嬉しそうにがつがつ食べる顔は好ましいんだけど。そして木野に言わせると本を開いたままでずっともたもた食べ切らない僕を見てると苛々するらしいけど、そんな時に文句言いながら何やかやと世話を焼いてくる奴のことが見てて楽しいからわざとやってるんだけど、果たしてこいつはいつ気づくんだろうか。とか思いながらぼんやり卵サンドをかじりつつ木野の顔を見ていたら、パンくずついてんぞってご飯粒つけたまま言われた。今日は鮭にぎりのようだ。

 


◇◇◇

 


(木野と先生)

 


「あっ、先生」
「はい何でしょう」
「先生って地味ですよね」
「何なんですか藪から棒に」
「や、別にそんな意味はないんですけど」
「はあ」
「さっきふとなんでこんな地味なのにモテてんだろこの人って思って」
「大概失礼なことを言っている自覚はありますか」
「え、ああすいません、怒ってます?」
「呆れてます」
「あはは」

「…まあいいですけどね、そんなこと言うために呼び止めたんですか」
「ああいえ、それで、あの、いいなと思って」
「は?地味なのが?」
「…あ、これ言うと長いです」
「手短に」
「えーと、早い話が僕は加賀が好きです」
「手っ取り早くしてくれるのはありがたいですが別に知っていましたが」
「何で知ってるんですか」
「…まあ教師ですから」
「……」
「怪訝な目はやめなさい」
「…で、ああそうだそれで僕は、いっつも頭のどっかで加賀に似合いそうなものないか探してます」
「はあ」
「今まで色々見つけたしいくつかは渡しました」
「ほう」
「そういうことです」
「なるほど、いやしかし」
「何ですか」
「率直に言うと君の見立ては悪趣味です」
「なっ」
「ついでに奇妙で不可解です」
「怒りますよ」
「そして何というか選ぶものに整合性が見受けられないですしそれより何より」
「何ですか」
「君も地味です」
「…………」

「いえ別に地味とは言いましたが快活そうで整った顔立ちだという印象はありますよ、しかしやはり元が主張の少ない素材だからこそ訳のわからない服もなんとなく似合うんでしょうけどこうして学ランだけで来られた日にはもうえらく地味です」
「地味地味言わないでくださいよ」
「だったら人に言わないでくださいよ」
「うっ」
「…ま、無理にあれこれ考えずに好きなようにすればいいと思いますよ面倒くさい。そもそも色々と気を回してるようで私の意志をさっぱり考えていない時点でどうかと思いますがね」
「…すいません」
「いいえ、では失礼。あ、そうだ」
「?」
「それほど君について知っているわけではありませんが、現時点では私は結構君のこと嫌いじゃありませんよ」

「…すいません俺は先生とはフラグ立てたくないです」
「ははは」
「あっ殴りますよって目してるすげえ怖いってほどでもないちょっと怖い、ほんとに何でそんなんでモテるんですか先生謎いなあ」
「ははは」


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